二楷堂昴の人生忙しい

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米IBMによるRed Hat買収について。Unix/Linux市場では最大手企業に

2018年29日、米IBMによるRed Hat買収が発表されました。
3兆8000億円という過去最高規模での買収劇となり、Linux市場では最大手ともいえるRed Hatの買収の衝撃はIT業界にとって非常に大きなものです。
また、26日はMicrosoftによるGuthubの買収も完了し、大手企業のM&Aによる市場拡大が活発です。
昨年はBrocadeの事業買収もあり、クラウドファーストである企業以外でもインパクトのあるM&Aが発生している状況です。


今回のIBMによるRed Hat買収によってIBM世界最大手のUnix/Linuxディストリビュータであると共にオープンソース企業となりました。


元々IBMが抱えている「AIX」もPowerアーキテクチャだけではなくIAサーバ向きも存在しております。
独自の「VIOS」を利用した冗長化など特徴のある製品です。
ファイルシステム管理の「LVM」に関しても最初にIBMが開発した技術とあって元々UnixLinuxの技術には精通しているでしょう。


またIBMは数年前にレノボにPCサーバ事業を売却してハードウェアベンダーからサービス事業やクラウド事業へシフトしています。


もちろん、「System Z」などメインフレーム向け事業はまだ主力製品です。
他にも金融機関に多く採用された「XIV」などを代表としたストレージ製品も健在です。


ですが今回のRed Hat買収は明確なクラウド事業の強化にあるのは言うまでもありません。


Red Hat社の主要製品である「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」はLinux市場では最も有名であると言っても過言ではありません。
商用のLinuxディストリビューションにおいて、「RHEL」を利用するのは少なくとも日本ではスタンダードでしょう。
他にも「Suse Linux」や「Oracle Linux」もありますが、RHELの市場規模とは比較にならないでしょう。


つまりIBMUnixの主要製品とLinuxの主要製品の両方を手にした形になります。


しかもこれまで書いてきた通り、Linux市場で最も有名ともいえる「RHEL」です。
既存の環境にも非常に多く存在するでしょうし、これからも使われ続けるでしょう。
IBMAIX以外の選択肢を顧客に提供するとともに、そこから利益を得ることが出来ます。
それまではRed Hatとの協業で得てきた利益を、今度は「自社サービス」として展開出来ます。


そして特筆すべきはRed Hatオープンソースに対して協力的で非常に貢献度の高い会社でした。


有名ではありますが「CentOS」が代表例と言えるでしょう。
ベンチャー企業などはCentOSを使い商用サービスを展開するほど、無料であるのに商用利用できるのはRed Hatの協力があったからこそです。
また、昨今のように「サブスクリプション」で利益を生み出していく流れの中で「基本機能は無料で使える」の代表例がオープンソースであるとも言えます。


Oracle社がサン・マイクロシステムズを買収した後に「OpenOffice」の開発が芳しくなくなったようにOSSに対する貢献を危惧する人もいると思います。


おそらくRHELが提供する機能やライセンスに関しては変化ないと思います。
また、現在の経営陣でRHEL含めたJBossなどを運営していくようなので、対外的な変化はないでしょう。
MicrosoftOracleなど独自にサーバOSを抱えていて、同じクラウド事業を推進する企業は様子見するのでしょうがあまり気分の良いものではないかもしれません。
それほどまでにRed Hatが持つ顧客基盤と、RHELというブランドが強いのです。


IBMが提供するRHELというのにもしばらく違和感が付き纏い続けるほどの買収劇でしょう。


ただし、ここで言いたいのはIBM自体は明確な戦略を持って買収しているのでその点は「本気」であるのが良く分かります。
IBMRed Hatを買収したことを非難したいという事はありません。
パブリッククラウド市場ではやはり「AWS」、「Azure」は先行しているイメージで「IBM Cloud」や「Oracle Cloud」はまだ後ろにいる感覚は否めません。
しかし、ここでRed Hat買収というインパクトの大きい選択を取ってきたのは「本気」でクラウド事業を加速させたいからでしょう。


IBMRed Hatを買収することで顧客はPowerアーキテクチャAIX技術に縛られず「RHEL」という選択肢を持つことが出来ます。


つまり、既存RHEL環境からクラウドへ移行したり、オンプレのリプレースであっても「Power」や「AIX」に縛られず、Linuxで最も有名なRHELを選択することも出来ます。
そして、従来はRed Hat社のRHELとして提供していたサービスを「IBMRHEL」として提供できるのです。
実績も豊富なRHEL製品群であれば技術者も多く導入のしやすさも違います。


もちろんRed Hatには他にもJBossだけではなくOpenStackやAnsibleなどの技術知識も多く存在するでしょう。


このようにIT業界の中でも非常に大きなM&AとなったRed Hat買収劇ですが、今後の動向が気になります。
IBM CloudがAWSやAzureと横並びに選択肢となる日が来るのでしょうか。
私もRHEL環境の設計・構築したこともあれば、IBMの社員とストレージやAIXを導入したこともあります。
非常に思い入れのある両社が一つになるのは違和感しかありませんが、少なくとも衝撃の買収であったのは間違いありません。



と4ヶ月ぶりくらいにブログを更新してみました。